株式会社インテンションは、株式会社エフエム大阪(FM大阪)の番組「iDoBuddy」内コーナー「AI Coaching Buddy」に全面協力し、2026年7月に全4回の放送を実施いたしました。
一般的なAIの紹介コーナーではありません。実際にラジオ番組の制作現場で起きている業務のつまずきを毎回ヒアリングし、それを解決するツールをこちらで開発し、生放送でそのまま動かしてお見せするという、公開実験のような形式で進めました。

各回の内容と仕組みは、特設サイト「FM OSAKA AI LAB」にまとめて公開しています。
進め方:課題を聞いてから作る

毎回、放送前の事前打ち合わせで番組ディレクターの実業務をヒアリングし、「どの作業に時間を取られているか」を特定するところから始めました。そのうえでツールを開発し、放送本番で実演する。このサイクルを4週にわたって繰り返しています。
AI導入の相談では、いきなりツールの話から入ってしまうことが少なくありません。しかし本当に重要なのは、その企業のボトルネックがどこにあるかを関係者で認識合わせすることです。ここを飛ばすと、それらしいものはたくさんできるのに、結局何が良くなったのか分からないという状態になります。この考え方は放送でもお伝えしました。
第1回:放送音声から、ブログとSNS投稿を自動生成
課題
番組ブログの執筆に、1本あたり約1時間かかっていました。放送後にスタッフの方が内容を思い出しながら手作業で書いていたため、更新が遅れがちになるという状態です。
つくったもの
放送の録音データを読み込ませるだけで、記事が一本まるごと出来上がるアプリを実装しました。
出てくるのは文章だけではありません。記事のタイトル、概要、見出しごとの本文に加えて、一覧に並べるサムネイル画像と、本文の内容に合わせた挿絵まで生成されます。特別な有料ツールは使わず、無料で使えるAIの機能だけで完結する形にしています。

実際に生成された記事は、特設サイトのブログに並んでいます。カードに表示されているサムネイルも、すべてAIが放送内容に合わせて作ったものです。

記事の中身はこのような形になります。見出しごとに、その段落で扱っている話題に合った画像が入ります。


文章と画像がかみ合っている点が重要です。段落ごとに何について書かれているかをAIが読み取り、それに合わせて画像を生成しているため、後から人がフリー素材を探して当てはめる作業が発生しません。
仕組み
ポイントは、1つのAIに全部やらせないことです。音声を文字に起こすAI、文章を要約して記事に組み立てるAI、内容に合った画像を作るAI、というように役割を分けて組み合わせています。ひとつのAIにまとめて指示するより、工程を分けたほうが精度が安定します。
この考え方は放送でもそのまま解説しました。議事録や文字起こしのように「正確に記録する」作業は、人の主観やバイアスが入らないAIの得意分野です。人間はその記録をもとに判断だけをすればいい、という役割分担になります。
結果
約1時間かかっていた作業が数分になり、放送終了とほぼ同時にブログを公開できる体制になりました。翌週の第2回の生放送中には、「今日のコーナーのまとめはこの後ブログにアップします」という話の流れで「もうアップされてます」というやり取りがそのまま電波に乗っています。
第2回:海外リポーター候補さがしの自動化
課題
番組では海外在住の方に現地からリポートしていただくコーナーがあり、その出演候補を探す作業がありました。
やり方は、海外在住者のブログを一人ずつ人海戦術で読んでいくというもの。内容が面白いかを見て、連絡先が公開されているかを確認し、なければ次へ。連絡先を公開しているブログは少数派のため、ここが最大のボトルネックになっていました。結果として、実際に出演されている方はほぼ知り合い経由という状況だったとのことです。
つくったもの
海外生活ブログのポータルサイトから直近の更新記事を収集し、国・地域別に候補一覧を作るツールです。263の国・地域カテゴリから選べます。
出力されるのは、ブログ名・投稿者名・記事タイトル・投稿日時・記事URLに加えて、AIによる記事の要約と「ここが深掘りできそう」というポイント、そしてメールアドレスやSNSリンクといった連絡先の有無です。CSVでも書き出せます。

対象の国・地域と、さかのぼる日数、取得する件数を指定して実行すると、記事を1件ずつ収集・分析していきます。
仕組み
まずプログラムが新着記事一覧を取得し、直近30日分に絞り込みます。次に各ブログのRSSフィードを探し、あればそこから、なければトップページから連絡先を検出します。最後にAIが記事を読んで要約と深掘りポイントを作ります。
ここでも工程ごとに担当を分けています。集めるのはプログラム、読んで要約するのはAI、という切り分けです。
あえて実装しなかった機能
「この人が面白いかどうか」の判断は、意図的にツールに入れていません。
何を面白いと感じるかはディレクターご本人の感覚であり、これを機械的なルールにしてしまうと、本当は良かったはずの候補を自動で取りこぼします。AIは判断材料を並べるところまで、選ぶのは人間、という線引きです。
同じ理由で、アプローチメールの文面自動生成も対象外にしました。1通ずつ内容を変えて送っておられるためです。
この方針は、ツールの画面上にも明記しています。上の画像の冒頭に「このツールは『面白いかどうか』の判定は行いません。AIは記事の概要と深掘りポイントの提示にとどめ、最終判断は人が行う前提で設計されています」と表示されているのがそれです。使う方が毎回目にする場所に書いておくことで、AIの出力を無条件に信じてしまう事故を防いでいます。
この「AIにどこまで任せて、どこから人間が判断するか」の設計こそが、AI導入で最も重要な部分だと考えています。
第3回:オンエア楽曲の重複チェック
課題
ラジオで曲をかける際、「この曲、最近かけていないか」「前の番組と被っていないか」の確認が必要になります。
これを1曲ずつ、過去の選曲表を目で見て確認しておられました。さらに過去のオンエア履歴を調べるには、公開サイトで日付を1日ずつ選んで検索する必要があり、前日以前まで遡って確認するのは現実的に不可能な状態でした。
つくったもの
番組で普段使っている選曲表のExcelファイルを画面にドラッグするだけで、全曲を自動で読み取り、過去の放送履歴と照合するツールです。判定は信号機のように色分けされます。

上の画面は、実際に使われた選曲リストで検証したときのものです。16曲が直近7日以内に被っていることを検出し、さらに表記のゆれで判断がつかない2曲を「要確認」として提示しています。曲ごとに、過去に何回・いつ使われたかまで一覧で出ます。
仕組み
まず、公開されているオンエア履歴サイトを機械が自動でめくって、曲名と日付を集めてデータベース化しました。その規模は2015年9月19日以降・約63万曲、3,959日分です。
照合は3段階で行っています。
- 完全一致 — 曲名とアーティスト名のペアで照合します。曲名だけで照合すると同名異曲を誤検出するためです
- あいまい一致 — 表記を機械的に揃えたうえで、似ている候補を絞り込みます
- AIによる最終判定 — 残った候補をAIに渡し、「同一曲か、別の曲か、判断がつかないか」を理由つきで判定させます
3段目が効くのは、人間ならではの表記ゆれです。全角の Tricky と半角の Tricky、サカナクション と sakanaction、Official髭男dism と OFFICIAL HIGE DANDISM。こうした揺れは機械的なルールだけでは吸収しきれません。
18曲のリストで照合にかかる時間は約0.2秒です。
なお、データを集める際は対象サイトのルール(robots.txt)に従い、5秒に1回というゆっくりした間隔で取得しています。公開されている情報であっても、相手のサーバーに負担をかけない配慮は必要だと考えているためです。
正直にお伝えしていること
このツールで被りを100%防げるわけではありません。生演奏や権利の都合で公式サイトに掲載されない曲は、そもそも照合できないためです。「見落としをゼロにする道具」ではなく「見落としを大幅に減らす道具」という位置づけでご説明しています。
放送でも同じようにお伝えしました。できることとできないことの線引きを正確に共有することが、結果的に信頼につながると考えています。
第4回(最終回):AI音声はどこまで来たか
最終回は業務改善ではなく、「今のAIがどこまでできるのか」をリスナーの皆さまに体験していただく回にしました。
Google NotebookLM を使い、AIパーソナリティ2人による音声を制作。番組紹介と、AI同士が新コーナーを考える企画会議を放送でお聞きいただきました。AIが出した企画は「この音、世界のどこの音でしょう」「世界お昼ご飯自慢」「大阪弁世界進出プロジェクト」の3つです。
これまでの音声コンテンツ制作は「原稿を書く、人が読む、編集する」という工程でした。それが「資料を渡すだけ」に変わりつつあります。
一方で、放送では声のなりすましや偽音声のリスクについても触れました。本物そっくりの声を誰でも簡単に作れる時代である以上、聞いた情報をそのまま鵜呑みにしない意識が必要になります。便利さとリスクは表裏一体です。
ツールを納品して終わりにはしない
今回の取り組みで、私たちが最も力を入れたのはツールの開発そのものではありません。
毎回の放送で、その仕組みを技術解説としてお伝えしたことです。スクレイピングとは何か、なぜ1つのAIに全部やらせないのか、AIはどこで間違えるのか。専門用語をそのまま使わず、番組を聞いている方に伝わる言葉に置き換えて解説しました。
あわせて、番組のチーフディレクターの方に対して、AI活用のコーチングを継続して行いました。コーナー名の「AI Coaching Buddy」は、まさにこの伴走を指しています。ツールを渡すだけでは、次に別の課題が出てきたときに再び外部に依頼することになります。自分たちで「これはAIで楽にできそうだ」と気づき、判断できるようになることが目的です。
放送でも、AIの習得に必要な時間についてお話ししました。重要な部分を掴むだけなら、5〜6時間もあれば十分です。難しいのは技術ではなく、自社のどこにボトルネックがあるかを見つけることの方です。
今後について
株式会社インテンションでは、現場のボトルネックに合わせたAIツールの開発と、使いこなせるようになるまでの伴走支援を一貫してご提供しています。
今回のように、毎回手作業で発生している確認作業がループしている企業様、AIを導入したいが何から手をつければいいか分からない企業様、そして「うちの業界は特殊だから無理だろう」と思っておられる企業様にこそ、ご相談いただければと考えています。
地味だけれど時間がかかっている作業ほど、AIで楽にできる余地があります。自社業務へのAI導入・内製化にご関心のある企業の皆さまは、お気軽にお問い合わせください。
